鶴見大学歯学部
―有床義歯補綴学講座―

       Department of Removable Prosthodontics
               Tsurumi University  School of Dental Medicine

No9


With The Department
No.9 Winter

March, 2013


【ご挨拶】

昨夏のロンドンオリンピックにおける日本選手団活躍の興奮がまだ醒めやらぬその暮秋,山中伸弥教授のノーベル生理医学賞受賞という快挙に日本中が歓喜しました.「受精卵のように,体中のあらゆる細胞になれる能力を持つ」万能細胞の開発は再生医療の推進に多大な貢献をするだけでなく,難病治療や新薬の開発に大きな期待が持たれています.こうした快事に昨年はスポーツとサイエンスの双方で日本の底力を実感した一年でした.
一方,今年になり日本経済はアベノミクスに好感し,平均株価はリーマンショック以降最高値を記録しています.これに同調し為替レートも3年半ぶりに下落,対ユーロ,対ドルともに大きく円安に揺れています.加えて東京オリンピック招致に成功すれば,さらに経済の活況を後押しすることになりそうです.約2年前の大震災で茫然自失した国民と国家が今まさに「ニッポン復活」を目指して,未来を切り開こうとしています.
本学では1年近く続いた2号館耐震工事もようやく終了し,装いを新たにしました.この工事に合わせて,当講座も廊下に雑然と並んでいたロッカーや書庫を新調し,研究室も若干の模様替えをしました.また,ここ数年で講座の構成メンバーも少しずつですが,新旧交代しています.この3月末に永年奉職された滝新典生先生,石川千恵子先生がご退職されます.講座の弱体化は否めませんが,その代わりに長田秀和,佐藤 薪,徳江 藍の3先生が大学院を修了し,4月より学部助手として教育スタッフに加わります.彼らは私が教授として最初から指導した大学院の第1期生であり,この若いエネルギーが衰微する講座力を復調する起爆剤になると期待しています.加えて,来年度もたくさんの学外の先生たちが臨床教授や非常勤講師として,臨床実習や基礎実習で学生を指導して下さる予定です.こうした本学への献身的協力や教職員の日頃の地道な努力により,楽観は許されませんが入学志願者も増加しつつあり,本学も恢復の兆しを見せています.「ツルミ復活」を目指して医局員一同,一致団結し全力で邁進する所存です.
今後とも暖かいご支援をどうぞよろしくお願い申し上げます.

大久保力廣
【近況報告】
・第44回全日本歯科学生総合体育大会は鹿児島大学歯学部の総合主管により開催されました.鶴見大学の総合成績は29校中12位でしたがバスケットボール部が見事,優勝しました.
・鶴見大学名誉教授 横尾太寿先生が10月,須田吉廣先生が7月に永眠されました.
・今年1月28, 29日(いずれか1日)に鶴見大学歯学部のI期入学試験が行われました.U期試験は2月26, 27日, V期試験は3月23日に行われます.
・第106回歯科医師国家試験が2月2・3日に行われました.
・旧補綴学第一講座 宮田孝義教授(歯科衛生科),旧補綴学第三講座 森戸光彦教授(高齢者歯科)の両先生が今年3月で定年退職されます.
次に平成24年度下半期の講座の主な動向をお知らせします.
・講師の滝新典生先生が10月付で学内教授に昇任されました.
・今年3月で退職される滝新先生の最終講義が12月18日に行われました.なお記念講演は3月28日補綴全体症例会で行われます.

滝新学内教授就任祝い(木曽路にて)

【学会発表】
1)日本老年歯科医学会第23回学術大会 (茨城県,2012.6.22-23)
・大貫昌理ほか 
展示「高齢全部床義歯装着者における咬合接触面積の変化と義歯機能」
・東條敏明ほか 
展示「全部床義歯装着者におけるQOL質問紙票と咀嚼機能の関連性」
2)IADR (Brazil, Iguacu Falls 2012.6.20-23)
・Yoneyama Y et al
展示「Influence of Tissue Conditioning to Brain Activity」
・Morokuma M et al
展示「Influence of Tissue Conditioning of Complete Dentures to Emotion」
・Matsuda R et al
展示「Influence of Tissue Conditioning of Complete Dentures on Brain Function」
3)第25回日本顎関節学会 (北海道, 2012.7.14-15)
・小樋香織ほか 
口演「滑膜性軟骨腫症における関節洗浄および摘出手術前後の咬合接触状態の変化」
4)12th AAAD / 23rd JAED?12th Biennial Meeting of Asian Academy of Aesthetic Dentistry (北海道, 2012.7.19‐22)
・Sato Y et al
口演「Modified Functional Bite Impression technique for fabricating a functional and esthetic crown 」
5)佐藤洋平 第1回補綴学会西関東支部会サマースクール (神奈川県, 2012.9.1)
口演「調和を求めた前歯部審美修復」
6)PER/IADR  (Finland, Helsinki 2012.9.12-15)
・Yoneyama Y et al
展示「Brain Activity to Changing Vertical Dimension of Complete Denture」
・Morokuma M et al
展示「The Effects of Tooth Brush to the Brain Functions」
・Matsuda R et al
展示「Influence of Vertical Dimension to Emotion using EEG」
7)日本歯科技工学会 第34回学術大会(岡山県, 2012.9.15‐16)
・市川正幸,高山慈子ほか 
展示「内冠を用いるキャップクラスプの製作」
・木原琢也,三浦英司ほか 
展示「CAD/CAMシステムを用いたDigital Duplicate Dentureの製作と臨床応用」
・松本敏光,佐藤洋平ほか 
口演「機能的咬合印象法による無調整補綴装置の技工術式「計測の技工」
・伊原啓祐,佐藤洋平ほか 
口演「審美修復におけるCAD/CAMとプレスセラミックスの戦略的応用」
8)第42回日本口腔インプラント学会 (大阪府, 2012.9.21-23)
・小澤大輔ほか 
・口演「インプラントオーバーデンチャー用緩圧性ボールアタッチメントの咬合負荷に対する維持力及び被圧変位補正量」
・鈴木恭典ほか 
口演「インプラント支持パーシャルデンチャーの補綴臨床統計」
9)第22回日本磁気歯科学会学術大会 (徳島県, 2012.11.3.)
・小澤大輔ほか 
口演「インプラントオーバーデンチャー用緩圧型アタッチメントの維持力と被圧変位補正量」
10)第22回日本歯科医学総会 (大阪府, 2012.11.9-11)
・大久保力廣ほか 
シンポジウム「新素材を用いたパーシャルデンチャーの臨床」
・鈴木恭典ほか 
テーブルクリニック「インプラントサポートパーシャルデンチャーの設計と臨床」
・佐藤洋平ほか 
展示「FBIテクニック ?調和のとれた補綴装置を無調整で装着する-」
・米山喜一ほか 
展示「義歯機能が脳の機能局在に及ぼす影響」
・新保秀仁ほか 
展示「4-META-MMA/TBBをもちいたノンクラスプデンチャー材料の接着に関する研究」
11)日本全身咬合学会第22回学術大会 (神奈川県, 2012.11.24-25)
・ 西山雄一郎ほか 
口演「下顎位および顎機能の偏りが身体重心動揺に及ばす影響 第5報 咬合力バランスと身体重心動揺」
・ 上西雅一,西山雄一郎ほか 
口演「下顎位および顎機能の偏りが身体重心動揺に及ばす影響 第6報 下顎位の偏位と姿勢について」
12)第31回日本接着歯学会学術大会・総会 (東京都, 2012.12.8,9)
・岡山章太郎ほか 
口演「UV照射チタンとアクリルレジンとの接着性に関する研究」
13)The 60th Annual Meeting of Japanese Association for Dental Research (新潟県, 2012.12.14-15)
・Osada H et al  
展示「Retentive forces of thermoplastic resin clasps for nonmetal clasp denture」
・Okayama S et al  
展示「Bonding strengths of PMMA resin to UV irradiated titanium surface」
14)鶴見歯学 (神奈川県, 2012.12.15)
・幕内俊介ほか 
口演「マウス胎仔の舌筋細胞分化過程におけるmiRNAの役割」
・小樋香織ほか 
口演「MR画像を用いた下顎頭機能面の面積の機能的定量方法の信頼性について」
・高山慈子ほか 
口演「鶴見大学歯学部生のこころの健康度調査 ー不安とうつ状態についてー」

【講演】
大久保力廣
・「ノンメタルクラスプデンチャーの現状と補綴学的評価」 (東京都, 2012.7.25)
・「デンチャーパラダイム2012‐難症例への対応-」 (東京都, 2012.7.29)
・「私の理想とする義歯」 (東京都, 2012.10.31)
・「ピエゾグラフィーとFBIを用いた義歯製作」 (神奈川県, 2012.11.8)
・「新素材を用いたパーシャルデンチャーの臨床」 (大阪府, 2012.11.10)
・「ノンメタルクラスプデンチャーの補綴学的評価 -予後の評価と今後の課題-」 (神奈川県, 2013.1.20)
石川千恵子
・「歯科医が行う睡眠時無呼吸症候群患者の治療法」 細井同門会 2011.11.19
三浦英司
・「義歯修理 神奈川県社会保険支払基金職員研修会」(神奈川県, 2012.11.6)

【論文】
・Suzuki Y, Katoh M, Sato J, Morokuma M, Hosoi MA, Ohkubo C.
「Pressure pain threshold of mucosa after tooth extraction under removable denture bases.」
【Eur J Prosthodont Restor Dent 19(4):184-6.2011. 12】
・Suzuki Y, Shimpo H, Ohkubo C, Kurtz KS.
「Fabrication of fixed implant prostheses using function bite impression technique (FBI technique).」
【J Prosthodont Res 56(4):293-6. 2012.1】
・Ohkubo C, Morokuma M, Yoneyama Y, Matsuda R, Lee JS.
「Interactions between occlusion and human brain function activities.」
【J Oral Rehabil 40(2):119-29. 2013.2】
・Takayama Y, Nomoto R, Nakajima H, Ohkubo C.
「Comparison of joint designs for laser welding of cast metal plates and wrought wires.」
【Odontology 101: 34-42, 2013.】
・小澤大輔,鈴木恭典,長田秀和,河野健太郎,大久保力廣
「インプラントオーバーデンチャー用緩圧型アタッチメントの維持力と被圧変位性」
【日本磁気歯科学会誌 21:57-65, 2012】
・高山慈子
「咬合挙上や咬合関係の改善に対応可能な支台装置─キャップクラスプとリテーナー型義歯─」
【補綴臨床 45: 681-687, 2012】
・大久保力廣
「ノンメタルクラスプデンチャーの現状と補綴学的一考察」
【補綴臨床 45:504-514, 2012】
・新保秀仁,長田秀和,大久保力廣
「患者に喜ばれるパーシャルデンチャー: 欠損歯列の検査に基づく前処置」
【デンタルダイヤモンド 37: 63-66, 2012】
・鈴木恭典,徳江 藍,佐藤 薪,大久保力廣
「患者に喜ばれるパーシャルデンチャー: 補綴的前処置の実施」
【デンタルダイヤモンド 37: 67-73, 2012】

<退職される先生方のご挨拶>
 39年間を振り返って
滝新 典生

 昭和49年歯科補綴学教室に入局以来、多くの先生方のご指導を賜り、なんとか今日までやってきました。そして私もまた、学生や若い医局員の先生方の指導に多少の成果は挙げられたのではないか、と考えています。その間に、3代の教授の先生方の下で仕事をしてきました。
 尾花甚一教授の時代、これは私が新卒の駆け出しのころから、なんとか教員として一人前になるまでの、修行の時代でした。尾花先生がもっと気が短くて、短期的な成果を求める先生であったなら、今の私はいないに違いありません。それが許されるいい時代であったともいえますが、「じっと待つ」尾花先生の人づくりが、私のみならず多くの教室員を育てたことは間違いありません。
 細井教授の時代、細井教授は補綴学会の理事や各種委員長など、要職を歴任されましたので、私は幹事としてお手伝いさせていただく機会が多々ありました。それまで大学の講座内にのみにとどまって、他大学の先生方との交流がほとんどありませんでしたので、これは大変大きな勉強になるとともに、その後の大学人としての生活に大きな糧となりました。
 CBTやOSCEという、臨床実習開始前の試験が始まったのは、平成14年頃からでしょうか。作成した問題を推敲する、ブラッシュアップという作業を学内でするようになったのもこの頃からです。当初はCBTの提出問題、さらに卒業試験の問題もブラッシュアップするようになりました。私は不思議にこの作業に能力を発揮し、ブラッシュアップ委員の常連になりました。他大学出身の私は、本学に長く在籍している割には他の講座の先生方と今ひとつ親しくなれない部分があったのですが、この仕事を通じて、学内のたくさんの先生方と親しくなることができました。これもまた私の大きな財産です。
そして大久保教授の現在。私は大久保教授よりもだいぶ年上ですから、教授も何かとやりにくかったのではないかと思います。しかしながら教授には敬意をもって接していただきました。歯科界、歯学部の冬の時代、入学志願者の激減など、いま歯学部は多くの難しい問題を抱えており、これまでの教授の先生方とはまた違ったご苦労を背負っておられます。私はここでいわば敵前逃亡をするわけですが、教室の若い先生方には是非、大久保教授の手となり足となり、伝統の有床義歯補綴学講座を支えて行っていただきたいと思います。
 39年間の大学生活、充実したものでありましたが、一方でやや疲れました。私は現役で大学に入学して6年で卒業、ただちに本学に助手として採用され、いわばまっしぐらな人生を歩んできました。私の息子と娘は、浪人する、留年すると、寄り道の多い人生を歩んでいます。それもいいんじゃないかと思います。私もこれからは、やや遅い感はありますが、人生の寄り道を楽しみたい、と考えています。

【今後の予定】
第90回 IADR 2013.3.20〜23 Seattle USA
第3回 日本歯科CAD/CAM学会学術大会 2013.4.20〜21 Tokyo Japan
第121回 日本補綴歯科学会学術大会 2013.5.18〜19 Fukuoka Japan
第59回 日本歯科理工学会学術大会 2013.10.13〜14 Fukuoka Japan
以上,簡単に教室の現状と予定をお知らせしました。
先生方の一層のご活躍をお祈り申し上げます.
   
     ニュースレター担当
鈴木恭典,三浦英司
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