鶴見大学歯学部
―有床義歯補綴学講座―

       Department of Removable Prosthodontics
               Tsurumi University  School of Dental Medicine

No7


With The Department
No.7 Winter

February, 2012


【ご挨拶】

忘れもしない大震災からおよそ1年が経過しようとしています.「頑張ろう日本!」を合い言葉に,我が国は復興に向けた長い道程を確実に一歩ずつ前進しています.

一方で,歯学部人気は依然停滞しており,今年度の入試状況も芳しくありません.私立歯科大学の一部では学納金を大幅減額するなど,入学志願者の確保が激化していますが,入学が容易になった学生も相対評価となった国家試験に合格するためには今まで以上の努力が必要です.大学教員は自己改革を余儀なくされ,以前に比較して仕事量は倍増しています.歯科界は完全に負のスパイラルに没入しているのかもしれません.

歯学部の定員割れには少子化や医学部の定員増など,いくつかの理由があげられていますが,歯科医師が適正数を超えているところに根源があると考えられます.入学者の定員割れも煎じ詰めれば歯科医師の社会的需給バランスが崩壊した結果であることから, 70?80年代のアメリカ歯学部に倣い,入学定員を大幅に削減し,歯科医師数を適正に戻すことが,今こそ必要なのかもしれません.しかし,教員数をさらに大幅削減しなければ,その選択肢を達成できないところに大きなジレンマがあるわけです.

当講座では今年度をもって,阿部 實先生,大貫昌理先生の両教授と鎌田奈都子講師,千葉ひかり学部助手ほか7名がご退職されます.当講座が教育,診療,研究のあらゆる面で非常に大きく戦力ダウンすることは疑いようのない事実です.

The few, the proud. 

しかし,たとえさらに教員数が減少したとしても,アメリカ海兵隊の「誇り高き少数精鋭」のように,残った少数の医局員が一致団結し,伝統ある鶴見の補綴を決して貶めることなく,本学歯学部を完全に復活させるべく誇りを持って全力で邁進しなければなりません.講座OB,OGの先生方におかれましては,こうした講座の状況を何卒ご理解いただき,基礎実習あるいは臨床実習を非常勤講師としてサポートしていただければ有り難く存じます.どうぞ暖かいご支援を心からお願い申し上げます.


大久保力廣


【近況報告】

・第43回全日本歯科学生総合体育大会は日本歯科大学生命歯学部の総合主管により開催されました.第43回大会は東日本大震災の影響で参加できない大学があったため順位はつけないことになりました.

・学校法人総持寺学園理事長に乙川暎元老師がご就任されました.

・平成23年度神奈川大学野球秋季リーグ戦(1部)において本学野球部が準優勝しました.

・10月1日付けで五味一博先生が歯周病学講座の教授にご就任されました.

・10月1日付けで細矢哲康先生が歯内療法学講座の教授にご就任されました.

・10月1日付けで小川 匠先生がクラウンブリッジ補綴学講座の教授にご就任されました.

・今年1月27, 28日(いずれか1日)に鶴見大学歯学部のI期入学試験が行われました.U期試験は2月27, 28日, V期試験は3月24日,W期試験は4月2日に行われます.

・第105回歯科医師国家試験が2月4・5日に行われました.

では平成21年度下半期の講座の主な動向をお知らせします.

・14th ICP (Hawaii, USA) において松田梨沙先生がPoster Presentation Awardを受賞しました.

・講師の大貫昌理先生が2月付で学内教授に昇任されました.最終講義は2月20日に行われました.

・助教の鎌田奈都子先生が2月付で学内講師に昇任されました.

・今年3月で退職される阿部先生の最終講義が1月26日に行われました.なお記念講演は3月22日補綴全体症例会で行われます.

・1983年〜1991年までの8年間,当講座に在職されていました岡島 努先生が2月4日に逝去されました.ご冥福をお祈りいたします.


【学会発表】

1)鶴見歯学会 2011.6.25

・ 中野拓也,徳江 藍ほか 弾性熱可塑性樹脂と修理レジンおよび軟質裏装材の接着強さに関する研究 

2)International College of Prosthodontists Hilton Waikoloa Village (Hawaii, USA) 2011, 8, 8-12

・Tokue A, et al  Fatigue resistance of metal clasps treated by fine-particle peening

・Morokuma M, et al  Influence of the Occlusal Force Improvement of Complete Dentures on BrainActivity

・Matsuda R, et al  Influence of Functional Improvement of Complete Dentures on Neuronal Activities

・Shimpo H, et al  Metal based denture with thermoplastic resin clasps using new adhesive system 

・Kitano N, et al  Bonding strength of silicone soft relining materials to thermoplastic reksins

3)第41回日本口腔インプラント学会学術大会 名古屋国際会議場 2011.9.17

・小澤大輔ほか インプラントオーバーデンチャー用緩圧型アタッチメントの維持力について

・鈴木恭典ほか 機能的咬合印象法を応用したインプラント固定性補綴装置の咬合接触状態に関する研究

4)日本磁気歯科学会第21回学術大会(東京医科歯科大学) 2011.11.13

・河野健太郎ほか インプラントオーバーデンチャー用緩圧型アタッチメントの負担圧配分 

・前田祥博,高山慈子ほか ハイブリッド型コンポジットレジンを用いたキーパー付き根面板の製作

5)日本補綴歯科学会西関東支部学術大会 神奈川県歯科医師会館 2012.1.8

・岡山章太郎ほか 有歯顎者および無歯顎者における口唇閉鎖圧の統計調査 

・徳江 藍ほか 微粒子ショットピーニング処理を用いたクラスプの維持力 

・漆原 優ほか 義歯フレームワーク金属に対するデンチャープラークの付着性

6)第4回日本義歯ケア学会学術大会 長崎大学病院 2012.1.28-29

・ 松田梨沙ほか 脳波を用いた粘膜調整の治療効果の評価 


【講演】

大久保力廣 

・ノンクラスプデンチャーの現状と設計指針 昭和歯学会後援セミナー 2011.6.23

・デンチャーパラダイム2011 ?理想的義歯を求めて? 滝野川歯科医師会 2011.7.9

・ノンクラスプデンチャーの功罪 -義歯の設計原則から- 足立区歯科医師会 2011.7.14

・ノンクラスプデンチャーを再考する -義歯の設計原則から- 江戸川区歯科医師会 2011.7.19

・義歯を活かすインプラントの有効な使い方 目黒区歯科医師会 2011.10.11

・パーシャルデンチャーによる難症例への対応2011 三条市歯科医師会,三条東公民館 2011.11.5

・Interactions between occlusion and brain function activities  Journal of Oral Rehabilitation CORE2011, Xian, China  2011.10.22

・「部分床義歯材料」 福岡歯科大学 2011.11.1

平成23年度日本歯科理工学会関東支部夏期セミナー 2011.7.30

大久保力廣 デンチャークロニクル 温故知新 ?義歯の行方? 

佐藤洋平 デンチャークロニクル 義歯材料の変遷 

石川千恵子 歯科医が行う睡眠時無呼吸症候群患者の治療法 細井同門会 2011.11.19

三浦英司 保険診療における特殊印象,顎機能検査および義歯設計について 神奈川県社会保険支払基金職員研修会 2011.10.7



【論文】

Takayama Y, et al. Condition of depressive symptoms among Japanese dental students. Odontology2011; 99(2): 179-187.

Ihara K, Ishikawa C, et al. The development and clinical application of novel connectors for oralappliance. J Prosthod Res 2011; 55(3),184-188

前田祥博,高山慈子ほか. 磁石構造体ハウジングが磁性アタッチメントの吸引力に及ぼす影響について 日磁歯誌,2011; 20(1):44-48.

Miyama Y, Okano D, et al. Retentive force of a magnetic attachments applied to the proximal surface- Part 2 - J J Mag Dent 2011;20 (2): 55-58. 

大久保力廣 

・パーシャルデンチャーを再考する Part2 義歯の構造設計とリフォーム 補綴臨床 44(4):454-463, 2011.

・パーシャルデンチャーを再考する Part 3 インプラント支持パーシャルデンチャー 補綴臨床 44(5):572-583,2011.

・義歯を活かすインプラントの有効な使い方  なぜ,インプラント支台の義歯なのか 日本歯科評論 71(8):30-38, 2011.

阿部 實

・ パーシャルデンチャーを再考する Part 4 すれ違い咬合の意味するもの 補綴臨床 44(6):656-665, 2011.

・ パーシャルデンチャーを再考する Part 5 DOSの設計,POSの設計 補綴臨床 45(1):92-101, 2012.

鈴木恭典

・義歯を活かすインプラントの有効な使い方  アタッチメントの種類と特徴,選択について 日本歯科評論 71(8):39?46, 2011.

高山慈子ほか 磁性アタッチメント義歯を成功に導くために−磁石構造体ハウジングを使っていますか?− 補綴臨床 45 (1): 64-73, 2012.

細井紀雄ほか 義歯のケア−歯科衛生士のための副読本− デンタルダイアモンド社 2011.

大貫昌理 全部床義歯における咬合様式の選択 DENTAL DIAMOND Vol.36 No.530 : 101-103, 2011.


<退職される先生方のご挨拶>




 退職に思う     

昭和46年4月初代歯学部長長尾優先生から辞令をいただいて鶴見大学に奉職して丸40年が過ぎたことになる。改めて考えると長かったようでもあるが、居心地が良かったせいか何時の間にか今日まで来てしまったというのが実感である。何とか無事に来られたのは、お世話になった皆様方の御蔭と感謝している。

赴任した当時は歯科医師不足で大学の新設が続いた時代であったが、今や歯科医師過剰の氷河期と言われて久しい。人間の仕事やライフサイクルの中で30年、40年という期間が単位となり、世代交代を繰り返しながら時代が変遷して行くことを体験的に学んでいる思いがする。高度成長の波に乗り“儲かる”歯科医に夢を描いた学生もあり、受験倍率も4〜5倍を超えていた時期もあったが、昨今は様々な努力にもかかわらず大幅な定員割れが続くようになり、教員の削減に加えて給料のカットが実施される厳しい状況に至っている。

こういう時こそ「人間万事塞翁が馬」という故事に学ぶ時かも知れない。そして、より本質的な問題、歯科とは何か、歯科医の生き甲斐、やり甲斐とは、などを自分なりに捉え直す必要があるだろう。

先日たまたま、徳真会グループの歯科医師松村博史氏が村上龍のカンブリア宮殿という番組に出演していたのを見た。患者が求める理想のクリニックを目指す新しいコンゼプトの医療法人で、医療と経営を分離してコメディカルを増やし、医療者が医療に専念できる環境を作り出す。「学び続ける」システムも合理的に組み込まれており、現場には「マネジメントリーダー」という患者目線でクリニックの全てを見渡し、指導するスタッフが置かれている。帝国ホテル並の快適さを目指すと語っていた。村上龍をして「徳真会のビジネスモデルには医療全体のヒントがある」と言わしめたことは、暗い氷河期の歯科界にも明るい一筋の光明を見たような気がした。

また、私の学生時代の教育には無かった「医療面接」の教科書には、患者の人生ドラマを最前列から見られる特権と醍醐味について指摘されている。私自身が40年の臨床経験を振り返ってみて納得できる、医療の本質的な側面を言い表している言葉だと思う。

あるいはまた、インド独立の父ガンディーは、「神は真理であり真理は神である。私は、真理の中に美を見、発見する。すべての真理というものは、非常に美しいものである。  

真の教育は、日々の活動の中に通っている真理と愛をしっかり見つめることから生まれる。真の教育は『生命の書』から学ばれるものである。」と語っている。

私自身も常に、より根源的な何かを求めているところがあり、退職しても変わらない「生涯学習」のテーマであると感じています。

阿部 實




退職の記            

この度、退職させて頂くことになりました。皆様には、これまで大変お世話になり、ありがとうございました。心より感謝申し上げます。私の三十年間の教室員生活は、良き恩師と良き先輩、後輩に支えられ、そして時代にも恵まれ、とても充実し、楽しいものでありました。院生であった二十代はかなり強引な先輩と、優しい女性の先輩から研究者としての姿勢を叩き込まれ、ものの考え方や結果の導き方、正しい遊び方を深夜まで教えて頂きました。また新米歯科医師だった私は、一つ一つの症例がとても新鮮で、興味と情熱を持って診療にあたりました。説明はちょっとわかりにくいけれど、適切な示唆を与えてくれる先生が近くにいてくれたことは私にとってラッキーであり、今ではとても感謝しています。三十代になると給料を頂けるようになり、自分自身も人の親となって、ある意味、「何でもできる」と言った妙な自信を持つようになりました。当時の患者さんが今、戻って来られると、その頃の自信がお口の中に見え隠れして、恥ずかしくなります。四十代は脂の乗った感じで診療に教育に邁進しました。しかし身体にも脂が乗り、少し自分の健康が心配になりました。四十代というのは中途半端に若いので、無理はできるのですが、必ず反動が来ます。そのためか二度入院しました。大学の先生として講義、診療、研究と一丁前な仕事ができるようになった、と思ったら、すでに自分は講座内で古株の存在になっていました。日々の仕事に追われながらも、後輩達の力になれるよう共に臨床に取り組み、小さな恩返しをしました。そうこうしている間にもう五十です。家族のこと、親のこと、これからの人生のこと、そんなことが頭をよぎる年齢になりました。いままで自由に生きてきましたから、これからは少しだけ親孝行をして、身体に良いこともしようと思います。新しい仕事のスタイルも考えています。今風に言うとライフイノベーションというやつです。上手く行くか解りませんが、皆様には、またご助言等頂ければ幸いです。それでは最後になりますが、皆様もお身体をお大事にして、益々ご活躍下さい。私も週末にはこれまで通り釣りに行って、十分充電し、仕事への活力にしようと思っています。

大貫昌理







再スタートによせて

2度目の退職です。1度目は診療科助手の時、今度はなんと学内講師とし退職することになりました。私は小野寺先生に誘われて第三講座に入局しましたが、国家試験に失敗し、第一講座になってから再入局しました。3年間、診療科助手として勤務し、2年間の専科生を経て30才を超えた時に大学院に入るという少し変わった経歴を有します。大学院修了後は細井先生の御厚意で助手となり、今年始めには大久保先生の御厚意で学内講師にさせて頂きました。

色んな立場で、やりがいのある仕事を経験させていただいたことは私の大きな財産となりました。助手になった当時先輩から「お前は怒ることが仕事なんだ!」と言われました。その言葉は「学生を叱るならば自ら手本になるような治療や技工をしっかりやりなさい!」ということだと思い切磋琢磨してきました。学生からは「恐い先生」とレッテルを貼られていましたが、実は怒る時に「私はちゃんと怒れるのか?」とびくびくしていたんです。沢山経験した仕事の中で私が一番好きな仕事は、多くの学生と接し、歯科医を育てているんだと肌で感じていた臨床実習とチューターです。学生教育は私の夢でもありましたし、学生と真剣勝負ができる時間だったからです。辛くもあり楽しくもある仕事でしたが、結果として、私自身を成長させてもらっていました。現在は有床義歯補綴学講座と名前は変わりましたが、ここが私の歯科医としての出生地です。これからは、学外から講座を少しでもサポート出来るよう励んでいこうと思います。暖かい内海から外海に出て行く決心がやっとつきました。長い間、陰ながら支えて下さった諸先輩の皆様、うるさい小言に耐えてくれた後輩のみなさん、本当にありがとうございました。

鎌田 奈都子


【今後の予定】

第3回  日本歯科CAD/CAM学会学術大会 2012.4.14〜15 Tokyo Japan

第59回 日本歯科理工学会学術大会 2012.4.14〜15 Tokushima Japan

第121回 日本補綴歯科学会学術大会 2012.5.26〜27 Yokohama Japan

第90回 IADR 2012.6.20〜23 Iguacu Falls Brazil

以上,簡単に教室の現状と予定をお知らせしました。

先生方の一層のご活躍をお祈り申し上げます.

   

  ニュースレター担当

鈴木恭典,三浦英司,富永真由美



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